柿の種とハワイ

ネットにいそしんで、ふいに横を見たら、Oさんが座布団の上にうつぶせに寝転んで足を折り曲げてフンフンと揺らしながら、文庫本を読んでいる。そして、柿の種が好物で、ぽりぽりつまんで食べている。あまりにくつろいでいるので、これは小学生以来の光景であった。小学生が友達の家で、互いに会話もせずマンガを読みふけっている、おやつをつまみながら、光景であった。あまりにくつろいでいるので、私には不思議であったが、実家の猫みたいなものかと思うことにした。わたしも畳に寝転んだら、顔がちくっとしてなんだと思ったら、柿の種のかけらだった。
Nさんに、ハワイ土産で紅茶をもらった。ハニーレモンと書いてある(英語で)。お湯を注いだら、甘い香りがする。私は実はハワイに行ったことがあって、これはハワイのショッピングモールの匂いだと思った。気分がハワイになって、朝の海とか背の高い樹とか、車とか道路とか、半袖と短パンの白人とか、ピザとコーラとかを思い出した。今、気分がハワイだったのにOさんがタバコを吸った匂いがベランダからしてきて、日本の郊外のアパートの一室に戻ってきた。あわてて、カップに顔をつっこんでハワイの匂いをかいだ。Nさんが、がんばれば叶うものでもない、というようなことをポロッと言って(正確には思い出せないです、すみません)、そうかもしれないなと思った。力を抜くということが、うまくいくコツかもしれないと最近気がついた。力を抜くというのが初めからうまくいく人もいて、反対に苦手ない人もいて、わたしは苦手なんだけれど、力むと空回りして疲れるばかりなのだ。そして、力む人の近くにいる人も疲れる。タイプにも因ると思うけど、目標に負けるのがわたしのタイプで、目標は多分たてないほうが良い。目の前の流れに流されて、たどり着いた先が、多分わたしの達成先なのだと思うようになった。流れは不快なものであっては続かないから、不快ではなくてぼちぼち続けられて、がんばるだろうけど力まないというのがベストです。目の前のものをつまむ、それを繰り返したら、なんとかなるかもしれない。風が吹いてきて、わたしは飛ばされる。郊外のアパートの一室で、くつろいだ男が柿の種を食べている。