改札口前の子ども

学校で、かばんから財布を取り出したらとなりの席の男子が、おっ黄色の財布と気が付いた。黄色の財布なんです、と見せびらかしたら、折るタイプのもはだめだねと言ってくる。お金は折られると苦しがるから、長いタイプの財布じゃなきゃだめだ、それも、本皮。レシートやカードも入れちゃだめ。そしたら、前の席のおやじ男子が、お札は下向きに入れなきゃねと言うから、そんなの知っているよと言ってやった。おやじ男子も財布を取り出して見せてくるけれど、レシートや紙切れやキーホルダーなどでパンパンなので、ぜんぜんだめじゃんととなりの席の男子がつっこんで、本皮の長いタイプの財布を見せびらかした。そもそも、わたしたちはみな無職である。(わたしは非常勤勤務してるけれど)。なぜ私たちにはお金が回ってこないのか、げんかつぎでは補えない欠陥が私たちにはあるのか。わたしたち無職だねと言ったら、黙り込んで、彼らはうんと言った。わたしは折るタイプの財布を折りたたまないで、お金が苦しくないように開いた形のままかばんにしまった。
駅の改札口でOさんを待っていた。改札口付近を眺めて、ぼんやりとしていた。視界に男の子が横切って入って来て、口を開けているのを見て大声で泣いているのに今更気がついた。かなきり声で何か言っている。親を呼んでいるようだけれど、お母さんなのかお父さんなのか、どちらを呼んでいるのかは判別できない。駅員さんがやってきて、男の子の頭をなでながら話しかけた。駅員さんは笑っていて、どうしたの、ぼうや、ははは、という感じだ。ぼうやは泣き止まず、親を探して首を回し、向こうから母親が笑いながらやってきたのを見つけて、急いで抱きつきに走った。母親は駅員さんと目を合わせ会釈をした後、はははと笑いながら、ホームに降りていった。子どもはもう泣き止んで、うわのそらで手をつないで一緒に行ってしまった。あの時、子どもは必死だった。死に際みたいな泣き声で叫んでいたのに、大人は笑っていた。母親を少し見失うことなど他愛もない大人と、母親が目の前から消えてしまう恐怖を感じる子どもと、わたしは違う場所から眺めていて、5分くらいでみんないなくなってしまった。