座る人

買い物をしに出たら、暗がりの道端に、座り込んだ背中がうっすら白く浮かんで見えた。白い服を着て、短髪で、離れたところに荷物があった。前を歩いていた人は遠巻きによけて通り過ぎた。気になったので、横を通るすきにこっそり眺めたら、老人がひざを広げた体育すわりでぼんやりとしていた。暗がりで顔は見えないから、ぼんやりかも老人かも分らないし、座りたいから座っているので、歩道の真ん中に座ってはいけないなど誰が言ったのかと思わず反省したけど、この白い服のひとはそんなことも考えていないふうにテレビを見る人と同じに座っていた。帰り、また同じ道を戻ってきたら白い服のひとはまだ座っていて、わたしはいったいこの人の前でどう振舞えばいいのかよくわからなくなってしまった。挨拶もできないし、何でもないようにすれ違うこともできそうもない気分で、やはり遠巻きから眺めるのがすじであるような気がした。座り込んでいる白い服のひとの上方には、電車の高架があって、わたしがくぐるときに電車がちょうど通った。電車の車窓の光であたりはいったん明るくなってまた暗くなった。白い服のひとの横を通り過ぎるときについ目を伏せた。わたしはすぐに振り返って、そしたら白い服のひとは立ち上がって、荷物をつかんで、手に握っていたごみを新築マンションの置き看板に、投げて捨てた。そして、そのまま、歩いていってしまった。わたしも思わず向きかえって、そのまま、歩いていった。